4、5年ほど前からロッテルダムでは毎年カメラ・ジャパンという日本映画際が行われている。こちらの設計事務所に勤務する日本人とオランダ人二人によって始められたもので、毎年少しずつ規模が大きくなっている。去年からはアムステルダムでも行われるようになり、開催期間中には映画以外にも日本人によるモダンダンス、DJ、アート、料理、建築といったあらゆる分野のパフォーマンスやレクチャーも行われている。
毎年参加していたので今では主催者の二人とも顔見知りとなり、今回のおすすめ映画やパフォーマンスを事前に教えていただく。例年は仕事が忙しくてあまり時間がとれないのだが、今年はちょうど暇で金、土、日と連日見ることが出来た。見た映画は、Li Ying による「靖国」、Gondry他3名の監督による「トーキョー!」、テッコンキンクリートでおなじみのMichael Ariasによる「ヘブンズドア」、吉浦康裕による「イブの時間」。
偶然ではあったものの、最後の「イブの時間」というアニメーション以外はすべて外国人の監督によるものとなった。中でも最初に見た「靖国」は印象に残った。2007年に製作されたこの映画は監督自らによって10年もの期間をかけて靖国神社内で撮影したあらゆる映像を集めたナレーションの無いドキュメンタリーとなっている。香港映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞したこの映画だが、中国人による靖国神社の映画ということと、文化庁所管の独立行政法人から助成金が出されているということなどから、日本ではかなりの論議を巻き起こし、一時は右翼団体の抗議運動によって日本国内での上映は中止となりかけたほどだ。
内容はここで詳しくは説明しないけども、個人的な感想としては靖国神社という場所とその意味するところをあらゆる人間模様を通じて巧みに表現されたもので、どちらか一方へ偏るということのない中立的な視点でありながら靖国問題の神髄を突いた良く出来た作品だと思った。とてもショックだったのは、靖国参拝を反対する青年たちと彼らを「中国へ帰れ」と罵倒して殴りつける日本人たちの姿を納めたシーン。実際のところ青年たちは日本人であった。中国人であれば良いという話ではもちろんない。しかし、同じ日本人同士が、しかも普通の一般人同士が、考え方の違いから血を流し合う姿を目の当たりにした時、なにか底知れない恐怖を心の底に感じてしまった。なにか自分の中奥底に腐敗した黒くドロドロしたものが潜んでいるような錯覚。
毎年夏場になると平和、平和と耳にすることが多くなる。が、平和というのは結果論である。世の中には平和を求めることで流される血が跡をたたない。考え方や信仰の違いが存在するのは当たり前なことだが、異なる考えを持つ相手に自分の考えを強要することから争いは起こる。今回この映画を見て、靖国の問題どうこうということよりも、この監督のとったスタンスそのものが、争いが耐えない世界に対するひとつの答えを提示しているような気がした。
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