世界中のあらゆる都市に、必ずと言ってよいほどチャイナタウンが存在するように、ブラジル・サンバ祭りもまた世界のあらゆる都市になぜか存在するもののひとつではないだろうか。日本では浅草サンバ祭りが特に有名だが、ここロッテルダムにもなぜかもれなくブラジル・サンバ祭り(通称カーニバル)が存在している。
毎年7月に行われるのだが、大抵の場合この工業都市は真夏でも肌寒く、半ば全裸に近いダンサーたちが何時間もかけて町中を踊り抜けていくのを、毎回気の毒な気持ちで見守ってしまう。が、今年は例年より温かい。そのせいもあってか今年のカーニバルは過去4年間の中では一番盛り上がっていたように思う。
町の中心には日頃そんなに人が多いわけではないのに、この日に限っては中心地は人ごみでごった返す。すべてのトラムが運行を停止し、町の中心部の道路はすべて歩行者天国となる。いったいこの都市のサンバに対する情熱はどこからくるのだろうか、と疑問に思ってしまう。さすがにオランダに来て5度目となると、わざわざ見に行く気もおこらないのだが、幸か不幸かカーニバルが家の前の通りまでやってくる。部屋の窓からは見えないのだが、中にいると音楽と太鼓の音だけが響いてうるさいので、仕方なく外に出て果てしなくつづく奇怪にくねる腰の群れを見ることにした。
ロッテルダムは、日本の学校の授業にも出てくるヨーロッパで一番大きな港がある都市である。そう聞くとあたかも都市自体が大きくて栄えている気がしてしまうが、惑わされてはいけない。実際の港(ユーロポート)はロッテルダム市の中心部からかなり離れた場所にあり、町の中心といえる場所は驚くほど小さい。冴えない商店アーケードがあり(とは言っても世界最初の歩行者天国商店街と称されているが)、映画館があり、飲み屋がたくさんある、まるで日本の地方都市を連想させる。
そう考えると、このサンバ祭りの意味もそれに対する町の情熱も、多少なりとも理解できるようになる。つまり、ロッテルダムは日本各地の地方都市のように、オランダ国内およびヨーロッパ各地から観光客を呼ぶのに必死なのだ。特にこれといったアトラクションも歴史的重要なモニュメントもないこの町は、週末のたびにあらゆるイベントを主催しては、市民を楽しませ、外から人を呼び集めている。
ここにざっと思い出しただけでも、国際映画際、カメラジャパン邦画祭り、F1路上エキシビションレース、サンバ祭り、トランス/テクノダンス祭り、北海ジャズ祭り、ヨーロッパスケートボード大会、建築ビエンナーレ、クラブミュージッック祭り、クリスマスパレードなどなど、とにかくイベントが多い。その度に町はその機能を放棄し、お祭りに従事する。口調がシニカルに聞こえるかもしれないが、個人的にはすごく好感をもっていて、この都市の例は日本の地方都市においても実行可能な、町おこしの手本になるのではないかと思っている。
最後にもうひとつ、このようなイベントの数々をこなす上で重要なのは、行政の理解力とフレキシビリティ、そしてなににも増して大切なのが徹底したゴミの処理である。お祭りのたびに街全体がゴミに埋め尽くされるのだが、必ず翌朝には跡形もなくきれいに片付いている。お祭り中の市民は細かいことを気にせずに楽しむことに専念し、行政はその陰でしっかりと後片付けの段取りを決めている。日本人ならば、初めからゴミを散らかさない工夫ないしは注意を呼びかければいいのに、と思う人が大多数だろう。みんなの場所だから市民一人一人がゴミを捨てないようにする、という日本に対して、こっちは公共な場所なんだから汚しても行政が片付ける義務がある、というスタンスなのだろうか。さすが高い税金を支払っているだけのことはある、と思いながらも、ふとまた公共/パブリックという概念について考えさせられた週末でした。
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