オランダ国境近いドイツ側にEssen-Zollvereinという場所がある。もともと巨大な炭坑だった所を廃業後、そのまま公園兼文化施設に変換し、現在ではユネスコ世界遺産にも登録されている。
先週末、元同僚の車でロッテルダムから日帰りで行ってきた。ドイツ側に入れば高速道路も制限速度がない。中古のサーブで最高速度210キロを記録して、通常2時間半のところを2時間に短縮した。小さな田舎町を抜けてまず目に入ってくるのは炭坑跡ではなく、SANAAによるデザイン学校の立方体だった。周辺が低層のレンガ造ばかりなので、コンクリート造のこの立方体はかなりの存在感を発していた。外装も内装もコンクリート打ちっぱなしのこの建築、優れているのは実は目に見えないところにある。ドイツ人環境エンジニアのマティアス・シューラー氏と共同で、炭坑跡の地下深くからダクトをひいてコンクリートのファサード内に張り巡らしてあると聞いている。地下の安定した温度を利用したこの土地ならではの優れたエコデザインと言える。
立方体を堪能したあと、いよいよ世界遺産に突入する。工業建築といって『形態は機能に従う』という言葉が頭に浮かんだが、敷地内に足を踏み入れてまず感じたのは、これは慎重にデザインされた建築群であるということ。もちろんその大部分が機能によって支配されているだろうものの、あらゆる部分のプロポーションやバランスがあまりに優れている。蓋をあけてみれば、Fritz SchuppとMartin Kremmerというプラント設計者によるもので、バウハウス主義の造形原理を工業分野にて実現させた貴重な例と記されていた。なるほど。
現在はOMAによるマスタープランに従い、少しづつ改修/改築/増築が行われているが、全体的には既存を主とした最小限の介入/デザインの配慮が感じられた。そんな中でOMA自らによるビジターセンターの主なデザインは既存の建物の最上階に通じる巨大なガラス張りのエスカレーターなのだが、これもまた現在の新たな利用における必要機能に従った形態であり、唯一の大規模な新築部分であるにも関わらず不思議と違和感を感じさせない。レムが日頃口をすっぱくして言うところの「デザインをするな」というデザイン手法がまさに生かされた作品のひとつだと思う。
今や改築の基本である、既存に対して見えないように介入することはある意味簡単で、逆に全面的に新設部分が主張されているのにあらゆる意味において既存に溶け込んだ介入というのは、とても優れた技である。新築の見えないところに、既存を介入させたSANAAの建築と共に、今後いっそう増えていく一方であろう保存というテーマにおいての新たな手法を案じさせていると思った。
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